タリス・スコラーズ(The Tallis Scholars)
1973年、指揮者のピーター・フィリップス(Peter Phillips)によって設立された、10名程度のメンバーからなるイギリスのボーカルアンサンブル(混声合唱団)である。
「タリス・スコラーズ」とは、16世紀イギリスの作曲家トマス・タリス(1505頃-1585)の音楽を学びきわめる人々の意。
ルネサンス期のポリフォニー音楽、ミサ曲やモテットなどの無伴奏宗教合唱曲をレパートリーとする。ビブラートを抑えた透明な声、正確無比な音程、完璧に調和した和声、明瞭な旋律線を徹底的に追求し、ルネサンス教会音楽の演奏における世界最高の合唱団と目されている。
特に、団の名前の由来となった作曲家トマス・タリス(Thomas Talis)やバード(William Byrd)たちのイギリスの曲、ジョスカン・デ・プレ(Josquin Desprez)などフランドルの曲、パレストリーナ(Palestrina)やアレグリなどのイタリアの曲、ヴィクトリア(Victoria)などのスペインの曲の演奏に定評がある。その一方、クレメンス・ノン・パパ(Clemens non Papa)、フレイ・マヌエル・カルドーソ(Manuel Cardoso)、チプリアーノ・デ・ローレ(Cipriano de Rore)、ハインリッヒ・イザーク(Heinrich Isaac)など、あまり知られていない作曲家の手による良質な作品の紹介にも積極的である。
演奏会は、あるときは教会で、あるときはコンサート・ホールで、年に約80回のペースで行っている。イギリス国内の他、ヨーロッパ各国、アメリカ、カナダ、日本、韓国、香港、オーストラリアなどにも定期的に赴き、高水準の演奏を行い、多くの熱心なファンを獲得している。
1994年、ミケランジェロのフレスコ画修復完成を祝う記念行事の最後を飾り、システィーナ礼拝堂での演奏を許された。同じ年、ローマのサンタ・マリア・マッジョーレ教会で、その聖歌隊長だったパレストリーナ没後400年記念コンサートを行なった。1998年、クラウディオ・アッバートに招かれてイタリアのフェルラーラで歌い、ロンドンのナショナル・ギャラリーで結成25周年記念コンサートを行なった。プログラムはジョン・タヴナーがタリス・スコラーズのために書いた作品(初演)。ナレーションをスティング、司会をデイヴィッド・アッテンボローが引き受けた。1998年12月5日、1000回目のコンサートをニューヨークで行なった。
レコーディングに関しては、タリス・スコラーズのレコーディングのみを目的として誕生した Gimell Records(ギメル・レコード)より、優れた演奏を収めたCDが多数発売されている。
1987年『ジョスカン・デ・プレ/ミサ・ラ・ソ・ファ・レ・ミ|ミサ・パンジェ・リングヮ(Missa La sol fa re mi and Missa Pange lingua)』のCDが英グラモフォン(GRAMOPHONE)誌「レコード・オブ・ジ・イヤー(Record of the Year)」に古楽で初めて選ばれたのをはじめ、1989年『ラッスス/モテット集 』『ジョスカン・デ・プレ/ミサ・ロム・アルメ』が仏ディアパゾン(DIAPASON)誌「ドール・ド・ラネー(d'Or de l'Année)」賞、1991年『パレストリーナ/ミサ・アスンプタ・エスト・マリア』と1994年『チプリアーノ・デ・ローレ|ジョスカン』が英グラモフォン誌「アーリー・ミュージック・レコード」賞、クラシックFMとグラモフォン誌の合同主催コンクールでのピープルズ・チョイス賞など、多くの重要な賞に輝いている。
1996年にはポリグラムとの提携により、ギメルの市場は大きく広がった。
ピーター・フィリップス(Peter Phillips)
ピーター・フィリップスはルネサンス教会音楽の研究と演奏をライフワークとする、この分野の第一人者である。1972年、オクスフォード大学に奨学生として入学したフィリップスはウルスタン、アーノルド両教授のもとでルネサンス音楽を修めている。1973年にタリス・スコラーズを創設し、独自のレーベルであるギメル・レコードに数多くのレコーディングを行なっている。タリス・スコラーズの指揮者の顔とともに、学者・著述家の顔を持つ。
ギメルから出版した著書「1549年から1649年までのイギリス教会音楽」(English Sacred Music 1549-1649)は、宗教改革からイギリス共和国時代までの英語による教会音楽の歴史の詳しい解説書であるが、百科事典に匹敵するものとして注目されている。
フィリップスはルネサンスへの関心を音楽から美術へと広げ、現在その時代の文化的背景の解説に力を注いでいる。タリス・スコラーズを指揮してあるいは単独で、イギリスはもちろん、アメリカやカナダでのテレビやラジオにもたびたび出演している。